※この記事は、元債券ディーラーのCappiが執筆しています。詳しいプロフィールはこちら
「資金力も情報も桁違いのプロの機関投資家に、個人が勝てるわけがない」
もしそう思っているなら、あなたは「最大のチャンス」を見逃しています。
元・機関投資家(債券ディーラー)として、数千億円のマネーを動かしていた私だからこそ断言します。 実は、プロは「無敵」ではありません。むしろ、ルールとノルマに縛られた「がんじがらめの弱者」なのです。
彼らが喉から手が出るほど欲しくて、個人投資家だけが持っている最強の武器。 それが、「自由」です。
この記事では、私が現場で味わった「底値で売らされるプロの悲哀」と、その隙を突いて個人がプロを出し抜く「唯一の勝ち筋」を暴露します。
1. 機関投資家は「サラリーマン」である。プロが抱える足かせ
まず知っておいてほしいのは、機関投資家もまた、組織に属する「サラリーマン」だということです。
学生時代の私が抱いていた「幻想」
私がまだ学生だった頃、機関投資家に対してある種の「幻想」を抱いていました。 映画『ウォール街』やドラマ『ハゲタカ』に出てくるような、冷徹で、誰にも縛られず、自分の才覚だけで巨万の富を動かす「相場師」。 そんな姿に少なからず憧れて、私は金融業界の門を叩きました。
しかし、入社して配属されたディーリングルームで待っていた現実は、全く違うものでした。
そこには、相場と戦う前に「社内政治」や「リスク管理部門」と戦う、疲れたサラリーマンたちの姿がありました。 彼らは自分の金を運用しているわけではありません。顧客や会社から預かった金を、ガチガチのルールと、上司の顔色を伺いながら運用していたのです。
「プロならダイナミックに自由に売買できる」というのは大きな間違いです。 組織人である彼らには、投資において致命的とも言える「3つの足かせ」が存在します。
「1年」で結果を出さないとクビになる(時間軸の制約)
個人投資家は「10年後に上がればいい」と思って気長に株を持てます。 しかし、プロは違います。四半期、あるいは1年単位で厳しく成績を評価されます。
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証券会社のディーラー:
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年間の損益(P&L)がそのまま「ボーナス査定」や「出世」に直結します。
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「3年後に上がる株」を持っていても、今年マイナスなら「能力なし」と判断され、最悪の場合はクビ(配置転換)です。
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運用会社のファンドマネージャー:
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四半期ごとの成績が悪いと、「顧客(年金基金や投資家)」から資金を引き揚げられます。
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運用資金が減れば、自分たちの報酬も減り、ファンド自体の存続が危うくなります。
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さらに、サラリーマン特有の「人事異動」という事情もあります。 「来年、自分が同じ部署にいるかどうかも分からない」状況で、誰が5年後のための種まきをするでしょうか? 彼らは構造的に、「今年、いや今月の成績」を追い求めざるを得ないのです。
「この株は今は下がるが、3年後には必ず上がる」と分かっていても、「今期のマイナス」が許されない。 この「近視眼的な行動」こそが、プロが市場平均に負ける最大の原因なのです。
上司と顧客への「説明責任」がある(コンプラ・説明コストの制約)
プロは、なぜその銘柄を買ったのか、なぜ損をしたのかを、論理的に説明しなければなりません。 この「説明責任(アカウンタビリティ)」こそが、プロのパフォーマンスを凡庸なものにする元凶です。
彼らにとって大切なのは、「儲けること」よりも「怒られないこと」です。
「みんなで渡れば怖くない」:割高な人気株を買う理由
例えば、あるハイテク株がバブル気味で、PERが100倍を超えていたとします。 プロの分析では「明らかに割高だ。暴落するだろう」と分かっていても、彼らはその株を買います。なぜなら、「ベンチマーク(市場平均)」に負けるのが一番怖いからです。
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もし買わずに、株価がさらに上がったら:
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「なぜ、あんなに上がっている株を持っていなかったんだ!市場平均に負けているじゃないか!」と顧客や上司に詰められます。
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もし買って、一緒に暴落したら:
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「まあ、市場全体が悪かったですからね。他社もみんな損しています」と言い訳が立ちます。
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つまり、プロにとって「みんなが持っている人気株」を持つことは、自分のキャリアを守るための保険なのです。だから、天井付近でも買い注文を出し続けざるを得ないのです。
「落ちるナイフは掴まない」:暴落中の優良株を買えない理由
逆に、素晴らしい企業が一時的な悪材料で暴落している「絶好の買い場」があったとします。 個人なら喜んで飛びつきますが、プロは動けません。
もし買って、さらに下がった場合、会議室で地獄の尋問が待っているからです。
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上司: 「なぜ、こんな下落トレンドの銘柄を買ったんだ?」
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担当者: 「ファンダメンタルズは良好なので、長期的には戻ります」
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上司: 「『長期的』とはいつだ? 来月の決算でマイナスだったら誰が責任を取るんだ? リスク管理規定に引っかかるぞ」
こうして、「正しい投資判断」よりも「社内政治的に安全な判断」が優先されます。 結果、プロは「底値」で指をくわえて見ていることしかできず、相場が完全に回復して安全になってから(=高くなってから)ようやく買い出動するのです。
もしプロが「不祥事銘柄」を買おうとしたら?
さらに、プロを苦しめるのが「コンプライアンス(法令順守)」の壁です。 分かりやすい例を挙げましょう。
ある超優良企業の株価が、役員の個人的な不祥事ニュースで暴落したとします。 企業の本質的な価値(業績やMoat)には何の影響もないため、投資家としては「絶好の押し目買いチャンス」です。個人投資家なら、喜んで買い向かう場面でしょう。
しかし、機関投資家のファンドマネージャーは違います。 彼らが「これは買いだ!」と判断しても、会社の上層部からはこんな指令が飛びます。
「ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から問題あり。即刻、全株売却せよ」
なぜなら、彼らの顧客(年金基金など)に対して、「不祥事を起こした企業の株を買いました」とは口が裂けても言えないからです。 たとえ底値だと分かっていても、組織を守るために、泣く泣く「宝の山」を市場に投げ捨てなければなりません。
その大量の売りを拾い、その後のリバウンドで利益を得るのは誰か? 何のしがらみもなく、合理的に判断できる個人投資家です。
この「サラリーマン的な保身」と「コンプラの縛り」こそが、プロのパフォーマンスを押し下げ、個人に勝機を与える大きな要因なのです。
2. 【実録】コロナショックで「底値」で売らされた日
これは私が債券ディーラーだった頃の実話です。 2020年3月、コロナショックで市場ではあらゆるリスク資産が大暴落しました。
当時、私の分析では「これは一時的なパニックだ。中央銀行が介入すれば必ず戻る。今は絶好の買い場だ」と確信していました。 個人の財布なら、間違いなく全財産を突っ込んでいたでしょう。(事実、個人の財布では優良株を買いまくっていました。)
しかし、組織の論理は違いました。
「リスク許容度を超えた。機械的に切れ」
市場のボラティリティ(変動率)が急上昇したことで、社内のリスク管理規定に抵触してしまったのです。 トップダウンで下された命令は、無慈悲なものでした。
「ポジションを落とせ。ルールだ。議論の余地はない」
私は、心の中で「今売ったら底値だぞ!」と叫びながら、泣く泣く保有していたポジションを投げ売りしました。 私の売り注文が約定したその画面の向こうで、誰か(おそらく個人投資家)がそれを安値で拾っていたことでしょう。
数ヶ月後、相場はV字回復しました。 ルールを守って損をした私と、自由に安値を拾って大儲けした個人投資家。 「組織に縛られるとは、こういうことか」と、強烈な敗北感を感じた瞬間でした。
私のエピソードは債券ディーラー時代のものですが、この構造は証券会社のディーラーであろうが、運用会社のファンドマネージャーであろうが、担当が株であろうが債券であろうが本質的には同じです。
3. 「情報・資金・スピード」では個人は勝てない
誤解のないように言っておきますが、プロの土俵で戦っては、個人がプロに勝つのは難しいです。
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情報: プロは月額数十万円のBloomberg端末を使い、要人の発言やニュースを即座に把握します。
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資金: 個人投資家とは比べ物にならない資金で相場を動かせます。
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スピード: 機関投資家のアルゴリズム取引には個人投資家の指の速さでは勝てません。
デイトレードのような「短期決戦」でプロに挑むのは、竹槍で戦車に挑むようなものです。私は絶対にやりません。
今は個人でも「武器」を持てる時代
現代は恵まれています。かつてプロしか見られなかった情報が、今は個人でも手に入ります。
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決算書(EDGAR)は誰でも即座に見れる。
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機関投資家の手口(Form 13F)もネットで公開されている。
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優秀な分析ツールが無料〜格安で使える。
「情報の質」の差は、驚くほど縮まっています。 この環境下で、個人がプロに勝つための「戦い方」とは何でしょうか?
4. 個人投資家がプロに勝つための戦い方
答えはシンプルです。プロが持っていない「時間」と「自由」を活かすことです。
「長期投資」こそが最強の戦略
プロは「損切りルール」があるため、暴落時には強制的に売らされます。 しかし、個人には強制ロスカット(現物の場合)も、上司への報告義務もありません。
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プロ: 1年で成果を出さないといけない → 短期でガチャガチャ売買する。
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個人: 10年持っていればいい → 暴落時は放置して、嵐が過ぎるのを待てる。
この「待てる力」こそが、個人がプロに対して持てる最大の優位性(エッジ)です。
プロが投げ捨てた「バーゲン品」を拾う
機関投資家が売るのは「その企業がダメになったから」だけではありません。 「決算期末だから」「リスク規定に引っかかったから」という、企業価値とは無関係な「大人の事情」で売ることが多々あります。
この「歪み(不当な安値)」を狙い撃つのです。 彼らが泣く泣く手放した優良株を、底値で拾い、彼らが買い戻しに来る(株価が上がる)のを数年単位で待つ。 これが、個人投資家が機関投資家を「カモ」にできる唯一の瞬間です。
まとめ:個人投資家も戦い方次第で「プロ」に勝てる
多くの個人投資家は、プロの真似をして短期売買を繰り返そうとします。しかし、それは彼らの土俵(情報・スピード)で戦うことであり、負け戦です。
あなたが使うべき武器は、プロには許されていない「長期保有の自由」と「説明不要の自由」です。
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決算が悪くても、Moat(競争優位性)が崩れていなければ売らなくていい。
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暴落が来たら、プロが投げ売りするのを待ってから拾えばいい。
かつてサラリーマン・ディーラーとして組織の論理に縛られていた私が、喉から手が出るほど欲しかったこの「自由」を、あなたは既に持っているのです。 この特権をフル活用し、時間を味方につけることこそが、資産形成への最短ルートです。
では、具体的に「どの銘柄」を拾えばいいのか?
もちろん、ただ長く持っていれば良いわけではありません。 プロが投げ売りした時に拾うべきなのは、「強力なMoat(経済の堀)を持つ、優良銘柄」です。
私が実際にどのような基準で銘柄を選び、どのタイミングでエントリーしているのか。 その「選定基準」と「投資哲学」について、以下の記事で徹底解説しています。
▼ 元債券ディーラーが選ぶ「優良銘柄」の条件

よろしければこの記事も読んで、「下落時に仕込むべき優良銘柄」を見極める目も養ってください。
(※本記事は投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断は自己責任で行ってください)


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